最近、AIを活用したブログ記事やユニーク動画が爆発的に増えています。「AIを使えば誰でも簡単にできる」「○○すればいい」――「不要になる」。そんな見出しが、毎日のように見られるようになりました。
もちろん、AIの進化は目覚ましいものがあります。だからこそ、そうしたコンテンツに触れるたびに、私はひとつの引っかかりを感じています。それは、AIがまるで「魔法の杖」であるかのように紹介されてはいないか、ということです。特に、これまでITにあまり馴染みのなかった方にとっては、AIに触れる最初の一歩が、そうした情報になりがちです。期待だけが先行してしまい、そのあとに来る現実とのギャップに落胆する方が少なくないのではないでしょうか。
自動調理鍋のたとえ
私はAIを「最近流行りの自動調理鍋」のようなものだと思っています。
食材と調味料を入れて、ボタンを押すだけで、しばらく待てば料理が完成する。非常に便利な道具です。しかも、その自動調理鍋にはレシピが用意されていて、手順通りに作れば失敗しにくいようになっています。
ただ、冷静に考えてみてください。そのレシピに書かれている食材や調味料は、醤油、砂糖、鶏肉、玉ねぎ――私たちが普段から馴染みのあるものばかりです。味や性質を、だいたいわかっているからこそ、レシピを見て「これならおいしくなりそうだな」と判断でき、自動調理鍋を安心して使えるものなのです。
では、もし初めて見る調味料や食材ばかりだったとしたら、どうでしょうか。名前も味も性質もまったくわからないものを、おそるおそる調理鍋に放り込んでボタンを押す人は、おそらく、ほとんどいないはずです。
まず手のひらに取って味見したり、小さなスケールで試してみたり、そうやって食材の性質をひとつずつ確かめた上で、「もっと効率よく調理したい」「もっと美味しい料理を作りたい」という意欲が生まれたときに、はじめて自動調理鍋の出番がやってくる。そういうものです。
AIに入れる「食材」を知っていますか
この話は、AI活用にそのまま当てはまります。
AIという自動調理鍋に入れるのは、テキストやデータであったり、画像であったり、業務上の情報であったり、さまざまな「素材」です。そして、その素材ひとつひとつがどういう性質を持つものなのか、どう扱うのが適切なのか、ある程度把握していることが、こそがAIを道具として活かすための前提条件です。
たとえば、社内の議事録をAIに要約させるとします。そのとき、議事録がどういう構造で書かれているか、どの情報が重要でどれが省略可能か、自分自身で判断できる人と、そうでない人とでは、AIから得られるアウトプットの質がまるで違ってきます。AIに適切な指示を出すためには、「自分が何を扱っていて、素材がどういうものか」を理解している必要があるのです。
「誰でもアプリを作れる」時代の落とし穴
もうひとつ、最近とくに気になっている例があります。AIによるアプリ開発の自動化です。
ローコード・ノーコードの進化により、自然言語でAIに指示するだけでアプリを作れる時代になりました。自分が欲しい機能を入力すれば、AIが業務プロセスを考え、そこへの入力項目を提案し、あっという間にその業務に合ったアプリが出来上がります。私自身も実際に簡単なツールを作ってみて、その手軽さには素直に驚きました。
しかし、一方で不安もあります。
システムを作るというのは、目に見えている「機能要件」――つまり「何ができるか」――だけでは成り立ちません。その裏には、目に見えにくい**「非機能要件」**と呼ばれる考え方があります。たとえば、そのアプリをどれだけの人が同時に使うのか、業務が止まったとき・アプリが動かなくなったときにどういう対策をするのか、悪意のあるユーザーが使う可能性は考慮されているか。そういった観点です。
これらは、日常的にシステム開発に携わっていなければ、なかなか意識が向かない内容です。AIが提案してくれることもありますが、何が正しくて何が適正なのかを判断するのは、一般のユーザーには難しいでしょう。
調理鍋のたとえに戻せば、これは「見た目は美味しそうな料理ができた。でも食中毒のリスクや栄養バランスまでは調理鍋が教えてくれない」という状態に近いかもしれません。
では、どうすればいいのか
そこで大切になるのは、システム設計の専門知識そのものではなく、もっと手前にある3つの姿勢だと私は考えています。
まず、自分の業務を深く理解していること。 AIに「こういうアプリが欲しい」と伝えるためには、自分の業務がどういう流れで、どこに課題があるのかを、言語化できなければなりません。
次に、トラブルに対して原因と対策を深掘りできること。 過去に業務で起きた問題を振り返り、「なぜ起きたのか」「どう防ぐのか」を考えた経験があれば、非機能要件に対する感度は自然と高まります。
そして、今だけでなく未来に対するイメージを持っていること。 今の業務だけに最適化されたアプリは、半年後には使い物にならないかもしれません。「この先、業務はどう変わるか」という視点があるだけで、AIへの指示の質はずっと変わります。
これらを自分の言葉でAIに伝えることができれば、機能要件だけでなく非機能要件の部分もかなり補うことができます。そして、「機能要件と非機能要件の両方を考えなければならない」とわかっているだけで、AIを使ったアプリ開発や業務改善は一気に前に進みます。
自動調理鍋を使いこなすために
自分の手で食材に触れ、小さなスケールで試す。まずはそこからです。すると失敗することも経験しますが、そのプロセスを経た人には、ひとつ大きなアドバンテージが生まれます。それは、専門家との会話が実りあるものになるということです。
料理にたとえるなら、自分で何度も作ってみたからこそ、「火加減がどうしてもうまくいかない」「この食材の扱い方だけがわからない」と、プロの料理人に具体的に聞くことができます。一度も包丁を握ったことがなければ、何を質問すればいいかもわかりません。
AI活用も同じです。自分の業務を理解し、AIで小さく試し、できることとできないことの輪郭が見えてきた。その経験があるからこそ、システム開発の専門家やITのプロフェッショナルに相談するとき、会話の質がまるで変わります。「よくわからないから全部をお任せします」ではなく、「ここまでは自分で整理できた。この部分について助けてほしい」という相談ができるようになるのです。
AIは魔法の杖ではなく、あくまで道具です。そして道具は、使い手の理解と経験があってこそ、その真価を発揮します。
最後にひとつ、お伝えしたいことがあります。AIを活用する皆さんは、自動調理鍋でいえばレシピを作る側です。用意されたレシピ通りに作るだけではなく、「この食材とこの調味料を合わせたら、美味しくなるはずだ」という組み合わせを自分の頭でイメージできる人です。それは、日々の業務や経験の中で培ってきた、皆さん自身の「味覚」にほかなりません。
その味覚を活かして、「もっと美味しいものを、もっと効率よく作りたい」と思ったときに、はじめて自動調理鍋が本当の力を発揮します。AI活用も、ここから始めてみてはいかがでしょうか。
なお、この文章自体もAIを使って書いています。ただしAIがゼロから考えたのではありません。私自身が20年近くシステム開発の現場に携わり、現在は個人事業主として、また会社役員として経営に関わりながら、現場に立ち続ける中で、日々感じている問題意識がもとになっています。「こういうことを伝えたい」という想いと、それを裏付ける経験を自分の言葉でAIに伝え、文章として整えてもらいました。まさに本稿で書いた通り、「食材を知っている人が自動調理鍋を使う」ということを、私自身が実践した結果でもあります。