レシピを書く前に食材を知る――ITという道具を迎えるその前に

レシピを書く前に食材を知る――ITという道具を迎えるその前に

「あの人に聞かないとわからない」という日常

少人数で事業を回している会社には、独特のスピード感があります。意思決定が早く、お客様との距離が近く、一人ひとりが何役もこなしながら現場を支えている。その機動力こそが、小さな会社の大きな強みです。

けれども、その裏側で、こんな状況が生まれてはいないでしょうか。

本当は営業に出たい。お客様のところに行きたい。新しいことを考える時間がほしい。なのに、日々の事務処理や在庫の確認、お金の管理に追われて、気がつけば一日が終わっている。誰かに任せたいと思っても、「自分がやった方が早い」が積み重なって、業務が特定の人に集中したまま何年も経っている。

そして、社内では当たり前のようにこんな言葉が飛び交います。

「それは○○さんに聞かないとわからない」

もしこの言葉に覚えがあるなら、この先の話は、きっとどこかで役に立つはずです。


アナログ管理の「あるある」に覚えはありませんか

日々の支援の中で、業種や規模を問わず繰り返し出会う光景があります。どれも珍しいことではなく、むしろ小規模な事業では「当たり前」になっていることばかりです。

まず、受注の入口がバラバラであるということ。電話で来ることもあれば、FAXのこともある。メールで届くこともあれば、LINEで「いつもの、お願いします」と来ることもある。入口が複数あること自体は悪いことではありません。問題は、受けた本人しか内容を把握していないことです。忙しいときに抜け漏れが起きても、誰もそれに気づけない。

次に、在庫の状況が特定の人の頭の中にしかないということ。倉庫を直接見に行かなければ数がわからない。発注のタイミングは長年の勘と経験に頼っている。担当者以外は「今、何がどれだけあるのか」が見えない。そのため、担当者がいなければ判断のしようがありません。

そして、お金の流れが見えにくいということ。通帳を記帳して、手書きのノートに転記して、Excelにまとめる。あるいは、そのどれかが抜けている。売掛金の回収漏れに気づくのが遅れたり、月末の締め作業をして初めて「今月はどうだったか」がわかったりする。

さらに、業務の進め方そのものが個人の頭の中にあるということ。手順書もマニュアルもなく、「あの人のやり方」で回っている。ほかのメンバーが自分で判断できず、その人が休めば業務が止まる。

これらに共通しているのは、「情報が人に属していて、一箇所にまとまっていない」ということです。

たとえるなら、冷蔵庫の中身があちこちに散らばっている状態です。冷蔵庫の中、棚の上、車のトランク、鞄の中。何がどこにあるかは、買い物をした本人しか知らない。料理を作ろうにも、まず食材を探すところから始めなければなりません。


ITを入れれば解決する、わけではない

こうした状況を何とかしたいと思ったとき、「とりあえず便利そうなITツールを入れてみよう」と考えるのは自然なことです。実際、世の中には魅力的なツールがたくさんあります。

けれども、ここでひとつ立ち止まって考えていただきたいことがあります。

業務の流れが整理されていない状態でITを入れると、どうなるか。答えは、「混乱がデジタルに置き換わるだけ」です。紙の上でバラバラだった情報が、今度は画面の中でバラバラになる。ツールを導入したのに、結局使いこなせないまま元のやり方に戻ってしまった、という話は珍しくありません。

前回のコラムで、AIを「自動調理鍋」にたとえました。食材の性質を知らないまま調理鍋に放り込んでも、おいしい料理はできない。同じことがITツール全般に言えます。大切なのは、道具を選ぶ前に「誰が・何を・どの順番でやるか」を整理すること。ITはその手段であって、目的ではありません。


二つのアプローチ

では、実際に業務改善に取り組もうとしたとき、どこから手をつければいいのか。大きく分けて、二つの考え方があります。

ひとつは、業務プロセスを先に整理するアプローチです。今の業務フローを棚卸しして、特定の人にしかできない仕事と、仕組みさえあれば誰でもできる仕事を切り分ける。「どう流すか」を決めてから、それに合った道具を選ぶ。根本的な改善につながりますが、整理には相応の時間と労力がかかります。日々の業務を回しながら並行して取り組む必要があるため、忙しい現場ほどハードルが高く感じられるかもしれません。

もうひとつは、まず省力化して考える余裕を生み出すアプローチです。手入力の手間、連絡のバラつき、転記作業の負担など、「今すぐ楽になる部分」から手をつける。小さな改善でも、積み重なれば確実に時間が生まれます。その時間を使って、業務プロセスの整理にじっくり取り組む。即効性がある反面、根本的な業務フローの見直しは別途必要になります。

どちらが正解ということではありません。事業の状況、代表の余力、メンバーのITへの慣れ具合によって、合うアプローチは変わります。大事なのは、「どちらの道を選ぶにしても、最初にやるべきことは同じだ」ということです。


最初の一歩は同じ

即効性を求める場合でも、じっくり取り組む場合でも、業務改善の出発点は変わりません。「今、自分たちがどう動いているかを書き出すこと」です。

すぐ手をつけたい場合は、書き出した中から「これは仕組みにできそうだ」と思える部分を見つけて、入力作業をフォームで定型化したり、会計まわりをクラウドソフトに任せたりすることから始める。今の業務を大きく変えなくても、負担を減らすことはできます。

じっくり取り組むなら、業務フローを書き出したうえで、各作業にかかっている時間を把握し、「自分でなくてもできること」を洗い出す。そのうえで、どこにITの力を借りるかを考える。時間はかかりますが、効果は大きい。

いずれにしても、書き出すことで初めて見えてくるものがあります。「思っていたより時間がかかっている作業」「実はもう必要のない手順」「誰かに任せられるはずなのに抱え込んでいた業務」。それらは、頭の中だけで考えていても、なかなか見えてきません。


道具は、小さく始めて育てていく

業務の流れが少しずつ見えてきたら、次は道具の話です。

ここで大切にしてほしいのは、「最初から完璧な仕組みをつくろうとしない」ということです。

まずはコストをかけずに始められる方法で、「情報を一箇所に集める」「入力のやり方を揃える」ことから取り組む。それだけでも、見える景色は大きく変わります。バラバラだった受注情報がひとつの場所に集まる。在庫の動きが記録として残る。お金の出入りが一覧できるようになる。

運用に慣れてきたら、必要な部分だけ専用のツールに置き換えていけばいい。たとえば、最初は表計算ソフトで管理していた会計まわりを、クラウドの会計ソフトに移行する。銀行口座と自動で連携させて、手入力の手間をさらに減らす。そうやって段階的にステップアップしていく方が、無理がありません。

最初から高機能なツールを入れる必要はないのです。「無料で小さく始めて、効果を実感してから広げる」。この順番が、小さな会社には合っています。


冷蔵庫の中身を、一度全部出してみる

業務改善というと、大げさなプロジェクトを想像するかもしれません。高価なシステムを導入したり、外部のコンサルタントに依頼したり、何か特別なことをしなければならないと思われがちです。

でも、最初の一歩は、もっと身近なところにあります。

冷蔵庫の中身を一度全部出して、何がどこにあるか確認してみること。つまり、自社の業務を棚卸しして「見える化」すること。それだけで、何を残し、何を変え、どこに道具の力を借りるべきかが、少しずつ見えてきます。

前回のコラムで、「自分の手で食材に触れ、小さなスケールで試す」ことの大切さについて書きました。業務改善もまったく同じです。自分たちの仕事を自分たちの目で棚卸しし、小さく試してみる。その過程で「できること」と「できないこと」の輪郭が見えてきます。

そして、現状を自分の言葉で語れるようになったとき、専門家との会話も、道具の選定も、ぐっと前に進みます。「よくわからないから全部お任せします」ではなく、「ここまでは整理できた。この部分を一緒に考えてほしい」と言える。その違いは、とても大きい。

業務改善は、特別なことではありません。まず、冷蔵庫を開けるところから始めてみてください。

とはいえ、「冷蔵庫を開けてみたものの、何から手をつければいいかわからない」「書き出してはみたけれど、次にどうすればいいのか迷っている」――そう感じることもあるかもしれません。それは、自分たちの業務に真剣に向き合い始めた証拠です。私たちは、その「開けてみた先」を一緒に考える伴走者でありたいと思っています。小さなことでも構いません。お気軽にご相談ください。


本コラムは、日々の支援現場で数多くの小規模事業者の方々と向き合う中で感じてきたことをもとに書いています。前回同様、文章の構成・整形にはAIを活用していますが、内容はすべて実際の支援経験に基づくものです。

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